数学公理集



数学公理集

                                 2009.07.02

                              アドバンテック研究所

                                代表 村上 彰

          <目次(Table of Contents)>

1. 正弦定理p2  2. 余弦定理p4  3.正接定理p9

4. 球面三角法p10   5. コサイン4乗則p13  6. 微分法(導関数)p14

7.三角関数p20  8.指数関数p29  9. テイラー展開(マクローリン展開)p31

10.正則関数p33   11.ガンマ関数p37  12. リーマンゼータ函数(ゼータ関数)p43

13.オイラー数p46   14.双曲線関数p47   15.ベルヌーイ数p51

16.自然対数p53  17.常用対数p54   18.テイラーの定理p55

19.タンジェント数p56   20.二項定理p56  21.近似法p59

22.円周率p60   23.ネイピア数の無理性の証明p65   24. 合同ゼータ関数p66

25.階乗p69   26.ザイデル収差p72

1. 正弦定理

正弦定理(law of sines)とは三角形の内角の正弦(サイン)とその対辺の長さの関係を示したものである。正弦法則ともいう。多くの場合、平面三角法における定理をさすが、球面三角法などでも類似の定理が知られており、同じように正弦定理と呼ばれている。

・正弦定理

三角形 ABC において、辺 BC, CA, AB の長さをそれぞれ a, b, c 、外接円の半径を R とし、∠A=A, ∠B=B, ∠C=Cとすると、

[pic]

という関係が成り立つというものである。一辺の長さとその両端の角が分かれば他の二辺の長さが分かるため、三角測量の基礎となっている定理である。

・正弦定理の証明

以下証明において角度には弧度法を用いている。なお π = 180°である。

三角形 ABC とその外接円(半径を R とおく)において、BC=a, ∠A=Aとすると、

0 < ∠ A < π/2 のとき

[pic]

線分 BD が外接円の直径となるような点 D を外接円上にとる。円周角の定理より、

[pic]

また BD は外接円の直径であることから、

[pic]

よって、正弦の定義より、∠D=Dとすると、

[pic]

である。 ∠A=Aとし、

sinD = sinA

を用いて変形すると、

[pic]

となる。同様にして他の角についても成り立つ。

∠ A = π/2 のとき

[pic]

BC = a = 2R であり

[pic]

であるから

[pic]

は成り立つ。

π/2 < ∠ A < π のとき

[pic]

線分 BD が外接円の直径となるような点 D を外接円上にとる。 円に内接する四角形の性質から、

[pic]

つまり、∠D=Dとすると、

sinA = sinD

となる。 BD は外接円の直径だから、BD = 2R。 正弦の定義より、

[pic]

変形すると

[pic]

となる。同様にして他の角についても成り立つ。

以上より正弦定理は成り立つ。

また、逆に正弦定理を認めると「円周角の定理」と四角形が円に内接するとき四角形の対角の和は 180 度であるという「内接四角形の定理」が成立することがわかる。

・球面三角法における正弦定理]

球面上の三角形 ABC において、弧 BC, CA, AB の長さを球の半径で割ったものをそれぞれ a, b, c とし、∠A=A, ∠B=B, ∠C=Cとすると、

[pic]

が成り立つ。これを球面三角法における正弦定理とよぶ。

2. 余弦定理

 余弦定理とは、平面上の三角法において三角形の辺の長さと内角の余弦の間に成り立つ関係を与える定理である。

[pic]

三角形の角と辺の関係

・概要

余弦関数 y = cos x は 0 < x < π において狭義単調減少関数であり、x と y の値は 1対1 に対応し x = arccos y である。三角形の内角の大きさはこの範囲内に収まるため、三角形の内角の大きさを知ることと、その余弦の値を知ることは同じことである。余弦定理は三角形の内角の余弦と辺の長さの関係を示す等式である。

△ABC において、a = BC, b = CA, c = AB, α = ∠CAB, β = ∠ABC, γ = ∠BCA としたとき

a2 = b2 + c2 − 2bccosα

b2 = c2 + a2 − 2cacosβ

c2 = a2 + b2 − 2abcosγ

が成り立つ。これらの式が成り立つという命題を(第二)余弦定理という。

余弦定理は2つの辺の長さと1つの内角の大きさが分かっていれば、もう1つの辺の長さが決まるという定理である。逆に 3つの辺の長さが分かっていれば

[pic]

のように余弦について解く事によって逆に内角の大きさを知ることができる。

また、 α = π⁄2 であれば、 cos α = 0 なので、(第二)余弦定理の特殊な場合として、ピタゴラスの定理(三平方の定理)

a2 = b2 + c2

などが導かれる。すなわち、(第二)余弦定理は、全ての三角形に一般化されたピタゴラスの定理である。

ユークリッド原論の第2巻命題12では ABC を γ が鈍角の鈍角三角形としたとき

c2 = a2 + b2 − 2abcosγ

が成り立つことと、命題13で鋭角三角形の場合が示されている。ユークリッド原論では余弦関数は使われていないが、辺の長さを用いて余弦定理と本質的に同じ命題が示されている。

イスラム世界では 10世紀に活躍した天文学者であり数学者のアル・バッターニーは、これらの結果を球面幾何学にまでひろげ星の間の距離を測定した。15世紀には、アル・カーシーが精密な三角関数表を作成し、余弦定理を三角測量に使いやすい形にした。このためフランスでは余弦定理の事を アル・カーシーの定理(Théorè me d'Al-Kashi) と呼ぶ。

西洋での余弦定理は16世紀にフランソワ・ビエタによって独自に発見されたことで有名になり、19世紀初頭から現代のような数式で書かれるようになった。

・定理

△ABC において、a = BC, b = CA, c = AB, α = ∠CAB, β = ∠ABC, γ = ∠BCA とすると第一余弦定理

a = b cos γ + c cos β

b = c cos α + a cos γ

c = a cos β + b cos α

と、第二余弦定理

a2 = b2 + c2 − 2bc cos α

b2 = c2 + a2 − 2ca cos β

c2 = a2 + b2 − 2ab cos γ

が成り立つ。単に余弦定理というと第二余弦定理を指す。

三角形の内角の和は π ラジアンであるため 2つの内角の大きさが分かっていれば、もう 1つの内角の大きさは定まる。すなわち、第一余弦定理は三角形の 3つの角の大きさと 2辺の長さが分かっているときにもう一つの辺の長さが決まるという定理である。

・第一余弦定理の証明

[pic]

鋭角三角形の時、第一余弦定理の一つ c = a cos β + b cos α は図のような関係を表している。

β = π⁄2 (直角)であるとき cos β = 0 となり cos β を含む第一余弦定理は

a = b cos γ

c = b cos α

のようになり b は直角三角形の斜辺であるため余弦関数の定義そのものになる。

以下、β と γ は直角ではないとする。すなわち cos β と cos γ は 0 ではないとする。

正弦定理によれば

[pic]

であり、加比の理から

[pic]

さらに三角関数の加法定理から

[pic]

よって、最初の式と最後の式より

a = b cos γ + c cos β

となる。

正弦定理では外接円の半径との関係もあるがその部分を除けば、この証明から逆に第一余弦定理を仮定して正弦定理を示すこともでき、両者は同値である。

・第二余弦定理の証明

-第一余弦定理の利用

第一余弦定理のそれぞれの式の両辺に左辺の値をかけて

a2 = ab cos γ + ca cos β

b2 = bc cos α + ab cos γ

c2 = ca cos β + bc cos α

を得る。

a2 + b2 = ca cos β + bc cos α + 2ab cos γ = c2 + 2ab cos γ

などとして第二余弦定理が示される。

-ユークリッド原論にみる原型

ユークリッド原論第1巻命題47においてピタゴラスの定理が示され、第2巻の最初の方では

(x + y)2 = x2 + y2 + 2xy

などの二次式の関係が図形問題として述べられる。

ユークリッド原論で扱われているのはこのような数式ではなく x2 は x を一辺の長さとする正方形の面積として xy は x と y を辺の長さとする長方形の面積として表され、正方形や長方形を比べることによって命題が述べられる。

それらを背景として第二余弦定理とほぼ同値な命題が現れる。しかし三角関数が無かった時代のものなので、現代のように角度と辺の長さの関係として捉えられていたわけではない。余弦が明示的に使われているわけではなく、特定の辺の長さを現代的に余弦を用いて表現すると一致するという意味である。同じ意味で第一余弦定理

c = a cos β + b cos α

に対応するものも考えてみると、 C から AB におろした垂線の足を H としたとき 辺 AB の長さは AH と HB の長さの和という事を言っているだけの定理なので、三角形の辺の長さの関係を表し、特に第一余弦定理を表しているといえる命題といったものはユークリッド原論の中には無い。敢えて言えば、三角形ではなく線分の内分、外分に関する命題ということになる。

・第2巻命題12

[pic]

ユークリッド原論第2巻命題12では AB2 = CA2 + BC2 + 2 (CA)(CH) が示されている

ユークリッド原論第2巻命題12では、鈍角三角形の鈍角に対応する第二余弦定理がピタゴラスの定理を用いて示されている。現代的に書けば

γ > π⁄2 のとき B から AC におろした垂線の足を H とする。 H は線分 AC 上ではなく AC を C の方へ延長した半直線上にある。 d = CH, h = BH として△ ABH と△ CBH にピタゴラスの定理を適用すると

c2 = (b + d)2 + h2

d2 + h2 = a2

となり

c2 = b2 + 2bd +d2 + h2 = a2 + b2 + 2bd

となる。

余弦関数を用いた表現では、鈍角に対する余弦が負になることに気をつければ d = − a cos γ である。

・第2巻命題13

ユークリッド原論第2巻命題13では、鋭角三角形に対する第二余弦定理が示されている。

△ ABC において A から BC におろした垂線の足を H とし p = BH, q = HC, h = AH とする。

第2巻命題7で示されている

a2 + p2 = 2ap + q2

という関係を使うことで

a2 + (p2 + h2) = 2ap + (q2 + h2)

△ ABH と △ ACH にピタゴラスの定理を使って

a2 + c2 = 2ap + b2

となる。

余弦関数を用いた表現では p = c cos β である。

・鋭角と三角関数

[pic]

△ ABC において γ が鋭角の時 B から AC におろした垂線の足を H とすると BH = a sin γ, CH = a cos γ, AH = |AC − CH| = |b − a cos γ| であり △ ABH にピタゴラスの定理を使えば

c2 = (b − a cos γ)2 + (a sin γ)2 = b2 − 2ab cos γ + a2 (cos2 γ + sin2 γ) = a2 + b2 − 2ab cos γ

となる。

α が鋭角になるか鈍角になるかによって AC と CH の大小関係が入れ替わるが、どちらが大きくても二乗によってこの符号の違いは関係なくなる。

・ベクトルによる計算

ベクトルを用いて

|[pi|[pic] |

|c] | |

| |[pic] |

| |[pic] |

| |[pic] |

| |[pic] |

3. 正接定理

 正接定理というのは △ABC に於て (a - b)/(a + b) = tan((A - B)/2)/tan((A + B)/2) が成り立つという一寸変わった定理である (岩波数学辞典 3/e には Napier の公式として出ている)。

普通この証明は三角函数の積を和に直す公式を用いて

rhs = 2sin((A - B)/2)cos((A + B)/2)/(2sin((A + B)/2)cos((A - B)/2))

= (sin A - sin B)/(sin A + sin B)

外接円の半径を R として, 正弦定理から

(sin A - sin B)/(sin A + sin B) = (R sin A - R sin B)/(R sin A + R sin B) = lhs.

というように行われる。

これを幾何学的に証明すると次のようになる。

a - b を考えるから BC ≧ CA としておく (そうでなければ, 入れ替えてから最後にもう一度入れ替え直せばよい)。

辺 BC 及びその延長上に点 D, E を CD = CE = CA となる様にとり, D から AE に平行な直線を引いて AB との交点を F とする。

[pic]

△ADE は点 C を外心とする三角形だから ∠DAE = ∠R.

従って

∠ADF = 2∠R - (∠FDB + ∠ADE) = 2∠R - (∠AED + ∠DAC)

= 2∠R - (∠CAE + ∠DAC) = 2∠R - ∠DAE = ∠R.

△ABC の外角で ∠ACE = A + B. 従って

∠EDA = (A + B)/2.

∠DAF = A - ∠CAD = A - ∠EDA = (A - B)/2.

△ADF で tan((A - B)/2) = tan ∠DAF = DF/AD.

△ADE で tan((A + B)/2) = tan ∠EDA = AE/AD.

従って

tan((A - B)/2)/tan((A + B)/2)

= (DF/AD)/(AE/AD)

= DF/AE = BD/BE … △BAE ∽ △BFD

= (BC - CD)/(BC + CE) = (a - b)/(a + b).

4. 球面三角法  

球面三角法とは、3つの大円(球の中心を通る円)の弧で囲まれた球面の部分を球面三角形と呼ぶが、その要素である3つの辺や3つの角の関係を表したもの。 平面上の三角法との最大の違いは、辺の大きさが長さではなく球の中心角によって表されることである。 平面三角法では6つの要素のうち3つの要素が決定されれば、残りの3つの要素を求めることができる。球面三角法でも同様に、3つの要素が分かれば残りの3つの要素を求めることができる。

球面三角法は、主に天文学や航海術で利用されてきた。現在では電子計算機の発達により、        球面三角形

より簡潔に式を表すことができる行列を使用した座標変換に計算方法が移行している。

・球面三角法の基本公式

ABC を球面三角形とし辺 BC, CA, AB をそれぞれ a, b, c とする。弧ABを含む大円と弧 AC を含む大円がなす角を A、同様に B, C も決定する。そのとき、次の式が成り立つ。

球面三角法の余弦定理

[pic]

[pic]

[pic]

球面三角法の正弦定理

[pic]

正弦余弦定理

[pic]

[pic]

球面三角法の正接定理

[pic]

・誘導定理

[pic]とおく。

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

・直角球面三角形

天文学や航海術では一つの角が直角の場合が多く、この場合公式は簡単になる。

[pic]とする。

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

これらを記憶するためにネイピアの法則がある。

[pic]

ネイピアの円と直角球面三角形

ネイピアの法則

ネイピアの円で [pic]である。

ネイピアの円のどれか一つの要素を中央要素とし、その隣の要素を隣接要素、さらにその隣にあり中央要素の反対側にある2つの要素を対向要素とする。このときネイピアの法則は次の式で表すことができる。

中央要素のcos = 隣接要素のcotの積

中央要素のcos = 対向要素のsinの積

・象限三角形

球面三角形の一辺が[pic]となっているものを象限三角形という。この場合も公式は簡単になる。ここで[pic]とする。

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

象限三角形もネイピアの円に [pic]をあてはめると、ネイピアの法則を適合することができる。

・双対原理

球面三角形の法則は、それぞれの要素の向かい合った要素の補角に置き換えても成り立つ。これを双対原理という。具体例をあげると

[pic]

より

[pic]

が成り立つ。

・haversine 半正矢関数

[pic]

で定義される半正矢関数 [pic]が航海用として使用されていた。定義よりこの関数の値は常に正であり、[pic] である。

[pic]から、最初の球面三角法の余弦定理を書き直すと

[pic]

より

[pic]

となる。

・ドランブル (Delambre) の公式

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

・ネイピア (Napier) の公式

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

5. コサイン4乗則 

コサイン4乗則(cos4 law, cosine fourth law)とは入射角と照度の関係を示すもので、レンズに入射する光の入射角が光軸に対して、θの場合、照度は以下の関係性を持つ。

I = I0cos4θ

|I0|:入射前の光の照度 |

|I |:入射後の光の照度 |

・周辺光量

周辺光量は光学系に関する概念である。レンズを通った光が結像面に当たったときには、光軸の中心が最も明るく、中心から離れるに従って暗くなる。これを周辺光量低下、または周辺減光という。

本格的に設計された写真レンズなどの場合、周辺光量の低下には、大きく2つの原因があり、1つは口径食、もう1つは、コサイン4乗則(cosine fourth law)に従うものである(詳細は各項目参照)。前者は絞りを絞ると軽減するが、後者は絞りとは関係しない。また後者は画角が広くなるほど影響が大きいので、広角レンズで問題になりやすい。

周辺光量の低下は、レンズフードなどアクセサリの不適切な使用で起こることもあり、また画面に対しイメージサークルの小さいレンズを用いて周囲が暗くなることもあるが、この場合もっぱら「ケラレ」と呼び、レンズの本来の設計上の問題以外の事象である。

・口径食(ケラレ)

口径食は、光学上の概念である。画像中心部と周辺部に明るさの差が発生(周辺光量の低下という)することの1つの原因である。本項では、英語では(広義の)"vignetting"に一括して含まれる、それ以外の原因による周辺光量の低下、およびケラレについても述べる。

-周辺光量の低下

一般的な写真レンズの周辺光量の低下には、大きく2つ  周辺光量が低下した写真

の原因がある。

1つは、写真レンズの絞りを通った光束は断面が絞りの形状(近似的には円形)になるはずであるが、光軸に対して一定以上の角度をもって入射した光に対しては、絞り前後のレンズの径などに制約され円形でなくレモン形や月が欠けたような形状になることがある。この現象は開放絞り付近で周辺部での光量が低下するという影響として現われる。絞りを絞ると軽減する。これが口径食である。付随して開放絞り付近で画面周辺部の点光源のボケ像が円形にならない現象が発生することもあり、この点光源の変形について言うことも多い。

英語ではこの現象をヴィネッティング "vignetting" と呼ぶが、周辺光量の低下全体も(広義の)"vignetting"であり、この現象のみをさすには"optical vignetting" と呼ぶ。

もう1つは、レンズへの入射角によって光量がコサイン4乗則(cosine fourth law)によって変化することに起因する。これは絞りを絞ることとは関係しない。

レンズの本来の設計上の問題以外に、周辺光量の低下は、後述のような不適切なアクセサリ等の使用で起こることもあるが、この場合にはもっぱら「ケラレ」と呼ぶ。

-ケラレ

レンズの本来の設計上は想定していないような使用法によって、周辺が暗くなることもある。英語ではこの現象を"mechanical vignetting"と呼んでいる。ケラレは次のような場合に発生する。

不適切なレンズフードの使用、あるいは厚すぎるフィルター枠などによって画面四隅が暗くなる。

画面サイズに対しイメージサークルの不適切に小さいレンズを用いて周囲が暗くなる。

コンバージョンレンズ等を付加して撮影するときに、画像全体に光が届きにくくなり周辺光量が低下する。

日本語では、下記のような現象も「ケラレ」という。

内蔵ストロボを広角レンズと共に使った場合、近距離でレンズ鏡胴やフードにストロボ光がさえぎられて、部分的に暗くなってしまうこと。

6. 微分法(導関数)

 数学、とくに解析学における微分法(differentiation, derivation)は、空間やその上に定義される関数・写像を各点の近傍で考え、その局所的な振舞いを調べることによって、それらの特徴を記述する方法である。積分法と並んで、解析学における中心的な概念のうちの一つとなっている。微分においては、特定の無限小を基準にして挙動を測っており、考えている無限小よりも高位の無限小についての情報は測り取れずに落ちてしまうため、ある量の微分は基準となる無限小に対して線型性を示し、やや大域的には考えている点の近傍の線型近似として捉えられる。微分から大域的な情報を得るには、貼り合せ条件や積分といった別の手段をきちんと考える必要がある。

・概要

関数 [pic]ある点 [pic]での微分は、 [pic]の近くでの関数の形を表す。このグラフが [pic]座標平面に書かれているならば、 微分は、関数 [pic]の [pic]における接線の傾きになり、接線の式を求めることができる。接線の傾きは、点 [pic]を定めるごとに決まる値で局所的な情報だが、ある程度広い範囲の点における微分を観察すると、関数の形を知ることができる。関数のグラフの曲がり具合や、その周辺では値が最も大きい点(極大)の場所などは、微分という局所的な情報から知ることができるのである。

局所的な情報を集めると、大域的な情報へ繋がるのである。例えば、自動車のスピードを常に測っていれば、走行距離を求めることができる。走行距離はタイヤが回転した数を数えても分かる情報なのであまりありがたみはないかもしれない。これが例えば、河川に流れる水の量などであれば、下流で流れた全ての水の量を測るわけにはいかない。このように総量のわかりにくいものは、水の流れる速度を観測し続けることで、河川に流れるおよその水量を把握できる。

微分を用いた方程式は微分方程式と呼ばれ、自然科学や社会科学のいろいろな場面で現れる。力学や電磁気学のような物理学はもとより、生物学でも生物の個体数の増減を微分方程式で表し、マグロ漁の予測に使ったり、伝染病の伝播を解析する。経済学では価値の増減を微分方程式から予測し、保険数理では死力などの予測にも使われてきた。

このように微分は科学の礎として、広い分野で活躍する概念である。

・実関数の微分法

微分するとは、微分係数(differential coefficient)や導関数 (derivative)を見つけることをいう。あるいは微分係数・導関数そのものを指す。

-微分係数

実関数 [pic]について極限

[pic]

が存在するとき [pic]は [pic]において微分可能(びぶんかのう、differentiable)であるといい、この極限を [pic]と書き [pic]における [pic]の微分係数と呼ぶ。極限が存在するということは [pic]への近づき方によらずに 1 つの値に収束するということであるが、この条件を弱めて [pic]より値が小さい方からの近づき方だけ考えた極限

[pic]

が存在するとき、これを この極限を [pic]と書き [pic]における [pic]の左側微分係数(ひだりがわびぶんけいすう、left-hand derivative)といい、 [pic]より値が大きい方からの近づき方だけ考えた極限

[pic]

が存在するとき、これを この極限を [pic]と書き [pic]における [pic]の右側微分係数(みぎがわびぶんけいすう、right-hand derivative)という。

[pic]において [pic]の左側微分係数と右側微分係数の両方が存在して値が一致することは、[pic] において [pic]が微分可能であることの必要十分条件であり、この時

[pic]

となる。

もし、関数が点 [pic]において連続でないのなら、その点における傾きというものを考えられないので、[pic] における微分係数は存在しない。 つまり、その点においては関数は微分不可能である。 ただし、その点において連続であっても必ずしも微分可能であるとは限らない。

-導関数

ある関数[pic] がある区間において微分可能であるとは、その区間に属するすべての点において微分可能であることをいう。 このとき、区間内の任意の点 [pic]に対して、その点における微分係数[pic] を対応させる関数を考えることができる。この関数を導関数という。

-記号

関数 [pic]の点 [pic]における微分係数を [pic]で表す(ラグランジュの記法)。あるいは、

[pic]

(ライプニッツの記法)や

[pic]

のようにも書く(ニュートンの記法)。

-高階微分

微分可能な関数 [pic]の導関数 [pic]がさらに微分可能なときf’の導関数を f’’と書いて 2 階の導関数と呼ぶ。以下帰納的に[pic]階の導関数が微分可能であるとき、その導関数を [pic]階の導関数という。一般に [pic]階微分可能な関数 [pic]の [pic]階微分を

[pic]

あるいは

[pic]

などと記す。

・性質

一般公式

[pic], [pic]が微分可能な [pic]の関数で、[pic], [pic]が [pic]に無関係な定数のとき

線型性:

[pic]

積の微分法則(ライプニッツ則):

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

合成関数の微分法則(連鎖律:Chain - rule):

[pic]

・初等関数に関する公式

いくつかの初等関数に関して、特徴的な微分公式が挙げられる。

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

・超準解析

超準解析の言葉では次のように表現される。実数 tが実関数 fの aでの勾配であることを

[pic]

が成り立つことと定める。fの aでの勾配が存在するとき、fの aで微分可能であるという。

[pic]を実関数、[pic]を 0 でない無限小超実数とする。fの勾配 [pic]が存在する時、[pic] の微分 (differential)dyは、

[pic]

で定義される微小量である。

・空間の形状・極値判定

微分可能な曲線(関数)の形状はその微分によってある程度知ることができる。実際、ある点で導関数が正値ならば増加、負値ならば減少し、ある点を境にして導関数に符号変化があるならばそこは極値点である。導関数の零点は極値点の候補を与えるが、導関数の零点が必ず極値点となるわけではない。導関数の零点の前後で符号変化がおきるかどうかはさらに高階の導関数を調べることで判定できる場合がある。

同様のことは変数を増やして次元を上げても考察できるが、一般には次元が上がるにつれて状況は極めて複雑になる。

・多変数関数の微分法

実一変数の関数の局所的な挙動を記述する微分法は、適当な記号法の下で多変数関数の場合にほとんどそのまま拡張を受ける。一変数関数 [pic]の [pic] なる点の周りにおける可微分性をランダウの記号を用いて、[pic] なるとき

[pic]

となる定数 [pic]が存在することという形に表せば、[pic] をベクトル値の変数 [pic]に取り替えて、[pic] に対して [pic]なるとき、つまり [pic]が [pic]のある近傍に属すとき

[pic]

を満たす定ベクトル [pic]の存在を仮定することによって多変数関数 [pic]の点 [pic]の周りにおける可微分性を定義することができる。この条件が満たされるとき、[pic] は [pic]において微分可能、特に全微分可能であるという。このとき特に [pic]と置くと

[pic]

が [pic]に対して成立する。つまり、全微分可能な関数は各変数に関して偏微分可能である。

また、一変数関数[pic] の場合に [pic]の極限で、

[pic] なる関数、[pic] が存在するとき、、[pic] を 、[pic] の導関数と呼んで

[pic]

と記すと同様に、ベクトル変数の関数 、[pic] においても

[pic]

と記し、この 、[pic] を関数 、[pic] の全微分と称する。

同様の議論をベクトル値関数 [pic]に対して適用することができる。関数行列 [pic] の存在によって

[pic]

が成り立つ点 [pic]を [pic]の正則点と呼ぶ。

・多様体上の微分法

[pic]次元実多様体は各点の近傍が [pic]次元空間の適当な領域となっているものであるから、多様体上の関数に対しても多変数関数の微分法をほとんどそのままの形で述べることができる。

多様体 M上の点 pの近傍 [pic]に座標近傍 [pic]を与えることにより、U で定義された関数または写像 fは Ω上の関数または写像と思うことができる。また、p を通る曲線 [pic]をうまくとって[pic] を [pic]のある座標軸と同一視することができる。特に、滑らかな写像 fの点[pic] における [pic]方向への微分[pic] を [pic]で考えた座標軸方向の微分(偏微分)として与えることができて、f の(全)微分 [pic]をU上で考えることができる。

[pic]を通る曲線 [pic]を任意に取り替えて得られる方向微分 [pic]の全体は [pic]に同型なベクトル空間を成し、点 [pic]における接ベクトル空間と呼ばれる。接ベクトル空間の元を接ベクトルと呼ぶ。[pic] 上の関数 [pic]に対して、点 [pic]におけるその微分[pic] は接ベクトル [pic]を [pic]へ写す線型写像である。したがって [pic]上の関数 [pic]を任意に取り替えて得られる [pic]における微分の全体は接ベクトル空間の双対空間となり、[pic] における余接ベクトル空間と呼ばれる。

点[pic] における接ベクトルは [pic]の近傍で定義された写像[pic] が与えられるごとに、その微分を返す局所的な微分ベクトル場になっている。各点で定義された接ベクトルの集まりが、多様体の局所近傍系の貼りあわせ条件と整合的に、貼り合せられるなら大域的な微分ベクトル場が得られ、大域的な微分ベクトル場の全体を考えることにより、接空間たちも貼り合わされて接ベクトル束とよばれるベクトル束を形成する。貼り合せ条件を満たす微分ベクトル場というのは接ベクトル束の切断であることを意味する。関数[pic] が多様体[pic] の全域で定義される大域的な関数で、各点 [pic]において微分[pic] を持つとき、これらと同様の貼り合せ条件で整合的に[pic] たちが貼り合せられると考えると、余接束の大域的な切断として[pic] の微分(形式) [pic]が得られる。

・複素関数の微分法

ガウス平面と座標平面との同一視により、複素一変数関数を実二変数の二次元ベクトル値関数と同一視することができる。実一変数における微分と同じ形式で微分係数および導関数が導入され、正則関数が定義されるが、複素関数の正則性は複素関数を実二変数の二次元ベクトル値関数と見たときの全微分可能性よりも強く、正則関数は解析性を示す。別な言葉でいえば、複素一変数関数のなめらかさの等級は Cω のみである。

・微分作用素

体 [pic]上の多元環 [pic]からそれ自身への写像 [pic]が

[pic]

[pic]

[pic]

[pic] を満たす(つまり、ライプニッツ則を満足する線型作用素である)とき、DはAにおける微分作用素であるという。A上の微分作用素の全体 [pic]は

[pic]

[pic]

とおくことによりK上の加群、さらには非可換多元環となる。これについてはリー環やD加群の理論が知られている。

7.三角関数

 三角関数(trigonometric function)とは、平面三角法において直角三角形の角の大きさから辺の比を与える関数の族および、それらを拡張して得られる関数の総称である。

・概要

[pic]

∠C を直角とする直角三角形 △ABC

直角三角形は1つの角が直角であり、三角形の内角の和は180度であることから他の1つの角の大きさが定まれば、角の大きさが3つとも決まり三角形の3辺の比も決まる。ゆえに角の大きさを与えることで、辺同士の比を返すような関数を考えることができる。

∠C を直角とする直角三角形 △ABC において ∠A = θ を与えれば、 3辺の比 AB : BC : CA が定まることから、h = AB, a = BC, b = CA とおくと、

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

という6つの値が定まる。それぞれ正弦(サイン/sine)・余弦(コサイン/cosine)・正接(タンジェント/tangent)・余接(コタンジェント/cotangent)・正割(セカント/secant)・余割(コセカント/cosecant)と呼ばれ、まとめて三角比と呼ばれる。余弦とは、余りの角、すなわちその角と直角以外の角の正弦を意味する。三角比は平面三角法に用いられ、巨大なものの大きさや遠方までの距離を計算する際の便利な道具となる。角度 θ の単位は普通、度かラジアンである。

θを単なる直角三角形の内角としてではなく、平面座標系上の任意の角として与えて、三角比の性質を研究することもできる。三角比の定義を一般化し、純粋に関数としての性質に注目したとき、これらを三角関数と呼ぶ。三角関数を円関数と呼ぶこともある。

三角関数のsinとcosの間には、ピタゴラスの定理から、

sin2θ + cos2θ = 1

の関係式が成り立つ。(なお、sin2 θ とは、(sin θ)2 のことである。)

また、後述する三角関数の加法定理及び派生公式を用いれば、任意の角度についてその値を近似計算することができる。

三角関数は、指数関数とともに初等関数の一種である。また

[pic]

という微分方程式の解でもある。

・定義

[pic]

点Oを中心とする単位円上での全ての三角関数の定義。

2次元ユークリッド空間 R2 における単位円 x2 + y2 = 1 上で、点 (1,0) から正の向きに回転する動点 P = (x,y) に対して、動点と原点を結ぶ線分が x 軸の正方向と成す角を t として、

[pic]

[pic]

[pic]

と定義する(ただし、tは反時計回りの向きを正として測る)。上から正弦関数(sine; サイン)・余弦関数(cosine; コサイン)・正接関数(tangent; タンジェント)と呼び、これらを総称して三角関数と呼ぶ。さらにその逆数、

[pic]

[pic]

[pic]

を、上から余割関数(cosecant; コセカント)・正割関数(secant; セカント)・余接関数(cotangent; コタンジェント)と呼び、これらを総称して割三角関数(と呼ぶ。また、割三角関数を含めて三角関数と呼ぶこともある。cosec は長いので csc と書くこともある。

・周期性

単位円上を往く動点 P は 2π の行程を隔てれば、単位円を一周する。従って、任意の行程 t は

[pic]

と表現することができる。この時、θ を偏角、t を一般角という。偏角でも一般角でも、最終到達点の座標は一致するわけであるから、                       

sin x と cos x のグラフ 周期性が確認できる

sin(θ+2πn) = sinθ

が成り立つ(他の三角関数でも同様)。このことから、三角関数は周期関数となる。

・歴史

一定の半径の円における中心角に対する弦と弧の長さの関係は天文学の要請によって古代から研究されてきた。

古代ギリシャにおいて、円と球に基づく宇宙観に則った天文学研究から、ヒッパルコスにより一定の半径の円における中心角に対する弦の長さが表にまとめられたもの(正弦表)が作られた。プトレマイオスの『アルマゲスト』にも正弦表が記載されている。

正弦表は後にインドに伝わり、弦の長さは半分でよいという考えから5世紀ごろには半弦 ardha-jiva (つまり現在の sine の意味の正弦)の長さをより精確にまとめたものが作成された(『アールヤバタ』)。ardha は"半分" jiva は"弦"の意味で、当時のインドではこの半弦(現在の sine の意味の正弦)は単に jiva と略された。また、弦の長さを半分にして直角三角形を当てはめたことから派生して余角 (complementary angle) の考えが生まれ、“余角 (co-angle) の正弦 (sine)”という考えから余弦 (cosine) の考えが生まれた。余弦の値もこのころに詳しく調べられている。

(*co- は complementary の略で、補完的・補足的という意味の接頭語として用いる)

8世紀ごろアラビアへ伝わったときに jaib(入り江)と変化して、一説では12世紀にチェスターのロバートがラテン語に翻訳した際、正弦を sinus rectus と意訳し(sinusはラテン語で「湾」のこと)、現在の sine になったという。

また、10世紀の数学者アル・バッターニが正弦法の導入、コタンジェント表の計算、球面三角法(球面幾何学)の定理を提唱した。

円や弦といった概念からは独立に、三角比を辺の比として角と長さの関係と捉えたのは16世紀ドイツのラエティクスであると言われる。余弦を co-sine とよんだり、sin, cos という記号が使われるようになったりしたのは 17世紀になってからであり、それが定着するのは 18世紀オイラーのころである。一般角に対する三角関数を定義したのはオイラーである。

・三角関数の相互関係

単位円上の動点の座標によって定まる関数であることから、三角関数の間に成り立ついくつかの相互関係を導くことができる。

基本相互関係

sin2 t + cos2 t = 1.

sec2 t − tan2 t = 1.

cosec2 t − cot2 t = 1.

負角・余角・補角公式

sin(−t) = −sin t.

cos(−t) = cos t.

[pic]

[pic]

sin(t + π) = −sin t.

cos(t + π) = −cos t.

・三角関数の加法定理

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

・加法定理の導出

多くの導き方がある

例1

xy平面上で原点をOとし、

点A,BをそれぞれA(cos(-α),sin(-α)),B(cosβ,sinβ)とすると、

線分ABの長さの2乗は

 (cos(-α)-cosβ)2+(sin(-α)-sinβ)2

 =2-2(cosαcosβ-sinαsinβ)

となるが、A,Bを原点O中心に+α回転させると

A'(1,0),B'(cos(α+β),sin(α+β))に移るので 線分A'B'の長さの2乗は

 (cos(α+β)-1)2+(sin(α+β))2

 =2-2cos(α+β)

となる。

点A',B'は点A,Bをそれぞれ回転させただけなので線分の長さA'B'とABは等しい。

よって

 2-2(cosαcosβ-sinαsinβ)=2-2cos(α+β)

したがって

 cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ・・・(i)

となる。

(i)をβ→-βとすればcos(α-β)=cosαcosβ+sinαsinβ・・・(ii)

(i)をα→π/2-αとすればsin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ・・・(iii)

(iii)をβ→-βとすればsin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ

を得る。

例2

オイラーの公式から、

[pic]

[pic]

[pic]

として実部と虚部を比較すると sin, cos の加法公式を得る。また、

[pic]

において分母と分子を [pic]で割ると tan の加法公式が得られる。

なお、当然のことながら、ここで述べた導出法はオイラーの公式を既知とするように三角関数の導入(たとえば三角関数をべき級数として定義)を行っていなければ通用しない。

・派生公式

加法定理から導かれる種々の有用な公式がある。

二倍角公式

sin 2α = 2 sin α cos α.

cos 2α = cos2 α − sin2 α = 2 cos2 α − 1 = 1 − 2 sin2 α.

[pic]

三倍角公式

sin 3α = 3sin α − 4sin3 α.

cos 3α = 4cos3 α − 3cos α.

[pic]

半角公式

[pic]

[pic]

[pic]

三分角公式

[pic]

[pic]

和積公式

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

積和公式

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

合成公式

[pic]

ただし、[pic] [pic].

[pic]

ただし、[pic] [pic].

・無限乗積展開

三角関数は以下のように無限乗積に展開される。(→証明)

[pic]

[pic]

・部分分数展開

三角関数は以下のように部分分数に展開される。(→証明)

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

・三角関数の微分法

[pic]

[pic]

[pic]

三角関数の微分では、次の極限

[pic]

の成立が基本的である。このとき、sin x の導関数が cos x であることは加法定理から従う。さらに余角公式 cos x = sin(x + π/2) から cos x の導関数は sin(x + π) = −sin x である。即ち、sin x は微分方程式 d2y/dx2 + y = 0 の、特殊解である。また、他の三角関数の導関数も、上の事実から簡単に導ける。

・逆三角関数

三角関数の逆関数を逆三角関数(inverse trigonometric function)とよぶ。逆三角関数は逆関数の記法に則り、元の関数の記号に −1 を(通常は右肩に)付して表す。たとえば逆正弦関数(ぎゃくせいげんかんすう、inverse sine; インバース・サイン)は sin−1 x などと表す。

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

である。逆関数は逆数をとるものではなく

[pic]

とは異なるので注意したい。逆数との混乱を避けるために、逆正弦関数 sin−1 x を arcsin x と書く流儀もある。一般に周期関数の逆関数は多価関数になるので、通常は逆三角関数を一価連続なる枝に制限して考えることが多い。たとえば、便宜的に主値と呼ばれる枝を

[pic]

[pic]

[pic]

のように選ぶことが多い。またこのとき、制限があることを強調するために、Sin−1 x, ArcSin x のように頭文字を大文字にした表記がよく用いられる。

・複素関数への拡張

三角関数の微分に関する性質から、cos x, sin x をテイラー展開することにより、かの有名なオイラーの公式 exp(ix) = cos x + isin x が導かれる。これより、2つの等式、

exp(ix) = cos x + i sin x

exp(−ix) = cos x − i sin x

が得られるから、これを連立させて解くことにより、正弦関数・余弦関数の初等関数としての表現が可能となる。即ち、

[pic]

[pic]

この事実を用いて三角関数の定義域を複素数全体に拡張することができる。まず、

[pic]

[pic]

である。ここで cosh x , sinh x は双曲線関数を指す。この等式は三角関数と双曲線関数の関係式と捉えることもできる。任意の複素数 z は z = x+iy (x,y∈R) と表現できるから、加法定理より

cos z = cos(x+iy) = cos x cosh y − i sin x sinh y,

sin z = sin(x+iy) = sin x cosh y + i cos x sinh y

が成り立つ。これこそが正弦関数・余弦関数の定義域を複素数全体に拡張した物である。他の三角関数も正弦関数と余弦関数の四則演算によって定義できるから、結局全ての三角関数は定義域を複素数全体に拡張できることがわかる。

|[pic] |[pic] |[pic] |[pic] |

|cos(x+iy)の実部のグラフ |cos(x+iy)の虚部のグラフ |sin(x+iy)の実部のグラフ |sin(x+iy)の虚部のグラフ |

・球面三角法

球面の三角形 ABCの内角を a,b,c, 対辺(球の中心角をとる)をα,β,γとするとき、次のような関係が成立する。

sin a : sin b : sin c = sin α : sin β : sin γ - 正弦公式

cos a = cos b cos c + sin b sin c cos α, etc. - 余弦公式

cos α = − cos β cos γ + sin β sin γ cos a, etc. - 〃

sin a cos β = cos b sin c − sin b cos c cos α , etc. - 正弦余弦公式

8.指数関数

指数関数(exponential function)とは、冪乗における指数を変数として、その定義域を主に実数の全体へ拡張して定義される初等超越関数の一種で、対数関数の逆関数である。

[pic]

底がe である指数関数(グラフの1マスは1)

・定義

正の実数 a を底とする指数関数 [pic]は、次の公理から一意に定まる関数として定義される。        

[pic]は、R から (0, ∞) への連続関数

[pic]

[pic]

指数関数の値 ap において、指数 p が自然数(あるいは有理数)であるとき、これは a の冪乗に一致する。冪乗を適当な方法を用いて拡張することにより、指数関数を定義することも可能である。

・微分

底がネイピア数 e である指数関数 ex の導関数は、ex 自身となる。ex を exp x と書いたりもする。任意の指数関数 ax は自然対数 ln を用いて、exp(ln(a)x) と表現できる。したがって、一般の指数関数 ax の導関数は (ln a)ax となる。

exp(x) は、微分方程式 dy/dx = y の特殊解に他ならない。これは逆に、微分方程式 dy/dx = y の y(0) = 1 を満たす初期値問題の解として指数関数を定義することができることをも意味している。

解析学の分野では、指数関数といえば、主に底がネイピア数であるもののみを指す。

・一般化

-複素変数への拡張

exp x の微分性質より、これをマクローリン展開すると、

[pic]

となることから、定義域を、任意の実数から、複素数全体へと拡張することが出来る。 exp(ix) を、cis x と書き、複素指数関数と呼ぶ。ここで i は虚数単位である。 exp x のマクローリン展開より、

[pic]

と書けるが、右辺の第 1 項は cos x のマクローリン展開、第 2 項は sin x のマクローリン展開に i を乗じたものに他ならない。即ち、cis x = cos x + isin x。複素指数関数は、三角関数に関する和として表現できるのである。 任意の複素数 z は、z = x+iy (x,y∈R) と表現できるから、

[pic]

これこそが、指数関数の定義域を複素数全体に拡張したものである。この逆関数として、複素変数の対数関数を定義することもできる。こうして定義される対数関数 ln z は

[pic]

として定義される複素関数 ln z と一致する。

一般の複素数 α を底とし、複素変数 z を指数とする指数関数は、複素変数の対数関数 ln z に対して、ln α が定義される限りにおいて

[pic]

とおくことにより定義することができる。これは ln z の多価性により一般には多価関数となる。ただし、ez については exp(x ln e) のこととは解さず、ez = exp(z) と理解するのが一般的であるようである。

複素変数への拡張は他にも方法があり、マクローリン展開を用いずに微分の自己再帰性と初期条件だけを与えた正則関数を考えても同じ結論を得る事ができる。

|[pic] |[pic] |

|exp(x+iy)の |exp(x+iy)の |

|実数部のグラフ |虚数部のグラフ |

|(なお、グラフ中の「re」は実部、「im」は虚部を意味する。) |(なお、グラフ中の「re」は実部、「im」は虚部を意味する。) |

-行列の指数関数

上記のテイラー展開の x に任意の正方行列 X を代入することにより、行列の指数関数 exp X が定義される。

とくに、X が n 次実一般線型群 GL(n, R) のリー環 gl(n, R) すなわち n 次の実正方行列全体を亘るとすれば、この指数関数 exp: gl(n, R) → GL(n, R) はリー環からリー群への指数写像の一つの例を与える。

・二重指数関数

Double exponential function。2種類の定義がある。

① 2つの指数関数の項からなる関数。f(x) = exp(ax) − exp(bx)など。

② [pic]の形で表現される関数。

9.テイラー展開(マクローリン展開)

テイラー展開(Taylor expansion)とは、無限回微分可能な関数 f(x) から、テイラー級数(Taylor series)と呼ばれる、負冪の項を持たない冪級数を得ることを言う。名称は数学者ブルック・テイラーに由来する。

f(x)が一変数関数の場合には

[pic]

この級数がもとの関数 f(x) に一致するとき、f(x) はテイラー展開可能であるという。 多変数関数の場合にも同様の展開法が考えられ、それもテイラー展開という。

厳密にはこの展開は x = a の近傍でのみ考えるものであり、x = a におけるテイラー展開とか、x = a のまわりでのテイラー展開という。a = 0 のとき

[pic]

を特にマクローリン展開と呼ぶ。テイラー展開がある大域的な領域の各点で可能な関数は、その領域において解析的である、またはその領域上の解析関数であるという。

関数が無限回微分可能であっても、テイラー級数が元の関数とすべての x で一致するとは限らない。一致するかどうかは、テイラーの定理における剰余項 Rn が 0 に収束するかどうかによって判定できる;ここで Rn は

ある c ∈ (a, x) が存在して、

[pic]

と書ける。または積分を用いて、次のように表せる;

[pic]

・例

いくつかの重要な関数のテイラー展開を以下に示す。これらは全て複素解析的な関数であり、複素変数であると考えても成り立つ。

指数関数と自然対数

[pic]

[pic]

幾何級数

[pic]

二項定理

[pic]

三角関数

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

双曲線関数

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

ランベルトの W 関数

[pic]

tan(x)とtanh(x)の展開に現われる数 Bk はベルヌーイ数である。 二項展開の C(α,n) は二項係数である。 sec(x) の展開に現われる Ek はオイラー数である。

・和算におけるテイラー展開

同時期の鎖国下の日本において、1720頃に和算家建部賢弘によってテイラー級数が使用されている。なんらかの公式であるとは認識してはいなかっただろうが、正1024角形のみを用いた40桁程度の円周率を導き出している。実質は[pic]の級数にx = 1 / 2を代入したものである。

[pic]

後に松永良弼はこれを更に70桁台まで飛躍させた。実質はsin − 1xの級数にx = 1 / 2を代入したもの。

[pic]

実のところは公式という認識にはいたってなかっただろうが、和算の功績のひとつである。

10.正則関数

 複素解析において、正則関数(holomorphic function)とは、ガウス平面あるいはリーマン面上のある領域の全ての点で微分可能であるような複素変数複素数値の関数のことである。

・概要

正則関数とは、複素関数(複素数を変数とし、複素数に値をもつ関数)のうちで、定義域(または議論の対象とする領域)の全ての点で微分可能な関数の事である。領域内の全ての点で微分可能であるという性質は、正則性といわれる。多項式関数、 指数関数、三角関数、対数関数、ガンマ関数, ゼータ関数など、複素解析において中心的な役割を演じる関数の多くはこの性質を持っている。

複素関数が正則であることを仮定すると、その関数は各点で何回でも微分することができる。すなわち、実関数(実数を変数とする関数)とは違って微分可能な回数に縛られることはなく、複素関数においては正則であるか否か、すなわちある特定の集合の全ての点で1回微分可能であるか否かの差異があるのみである。 このような1回微分可能ならば何回でも微分可能という性質は、複素関数のもつ最も大きな特徴であると同時に、他の関数の微分とは一線を画す特異な性質でもある。

微分可能性についての複素関数と他の関数の著しい相違の原因は、そもそもの微分の定義の違いにある。 実変数の場合、極限は直線的な近づき方のみしかないが、複素関数の場合の極限は2次元平面の任意の曲線に沿った近づき方が許される。 よって、実変数の極限よりも複素変数の極限の方がより強い条件となるので、複素関数の微分可能性の方が実関数のそれよりもより多くの内容をもつ。 では、平面を定義域とする2次元ベクトル場と複素平面を定義域とする複素関数との相違は何かといえば、それは代数的構造である。 ベクトル場では、定義域・値域のベクトル空間は体ではないため、商が定義されていない。 よって、微分に対しても商を用いた定義をすることができないため、ベクトル場は正則関数のような強い特徴は持たない。 複素関数の定義域・値域である複素数体には商が定義されているので、ごく自然に微分係数を商で定義することができる。 また、「ごく自然に微分係数を商で定義すること」の結果として、コーシー・リーマンの方程式を経由し、調和関数と正則関数は関係付けられる。 正則関数の特異で便利な性質は、調和関数の性質を引き継いだものとして捉えることができる。

さらに、正則であれば何回でも微分可能ということから、正則関数は冪級数に展開されるので、複素関数に関しては、それが正則関数であるということと解析関数であることとは同じである。また、一致の定理により正則関数はその特異点を含まない領域へ一意的に拡張(解析接続)することができる場合がある。

ガウス平面の全域で正則である複素関数は整関数であるといい、正則関数の商として得られる関数は有理型関数という。

・定義

ガウス平面 C 内の開集合 D と D 上で定義される複素関数 f(z) について、a ∈ D に対し極限

[pic]

が定まるとき、すなわち D 内で z を a に近づけるとき、どのような近づけ方によっても右辺の商がただ一つの値に収束するとき、複素関数 f(z) は点 a で、あるいは z = a で複素微分可能または単に微分可能であるといい、この極限値を

[pic]

と書いて、複素関数 f(z) の点 a あるいは z = a における微分係数と呼ぶ。 複素関数 f(z) が D で複素微分可能である、すなわち D の全ての点で複素微分可能であるとき、複素関数 f(z) は 開集合 D において正則であるといい(集合における正則性)、複素関数 f(z) は D 上の 正則関数であるという。 また、複素関数 f(z) が点 a で複素微分可能なだけだなく、点 a を含む適当な(どんなに小さくてもよい)近傍 U(a) でも複素微分可能である(近傍 U(a) の全ての点で複素微分可能である)とき、複素関数 f(z) は点 a で正則であるという(1点における正則性)。

・性質

f, g を領域 U 上で定義される正則関数とする。また α, β を複素数の定数とすると

線型性: [pic]

ライプニッツの規則: [pic]

連鎖律: [pic]

が成り立つ。ゆえに正則関数の和、定数倍(スカラー倍)、積は再び正則である。

正則関数は微分が 0 にならない点において複素平面上の等角写像である。

・コーシー・リーマンの方程式

z = x + iy とおいて、ガウス平面 C を実平面 R2 と同一視すると、複素関数 f は 2 つの実 2 変数関数 u(x,y), v(x,y) を用いて

f(x,y) = u(x,y) + iv(x,y)

と表すことができる。f(z) が正則関数であれば、u, v はコーシー・リーマンの方程式と呼ばれる偏微分方程式

[pic]

を満たす。

ここから正則関数 f(x,y) の実部 u(x,y), 虚部 v(x,y) は実 2 変数の調和関数であることがわかる。

コーシー・リーマンの方程式は f(x,y) が正則となるための必要条件であるが、さらに u(x,y), v(x,y) が、二変数の関数として全微分可能であるならば、 f(x,y) は正則となる。

また、変数を

z = x + iy

z = x - iy

の2つとしたとき、コーシー・リーマンの方程式は、ディーバー方程式

[pic]

に変換される。すなわち、f が微分可能であり z に依存せず

f(z,z) = f(z)

の形で書けるとき、コーシー・リーマンの方程式は成り立つのである。

ディーバー方程式を用いれば、たとえば、多項式に z しか現れないとき、コーシー・リーマンの方程式が成り立つのは一目瞭然であるし、

[pic]

のように z を含むものを、 z で微分して 0 にならないのであれば、コーシー・リーマンの方程式は満たされないのである。

|z| の場合は、 z 微分して 0 にならないこともすぐ分かり、正則ではない。

・解析接続

ある領域 E において定義される正則関数 h(z) が与えられているとする。また、E を含む領域 D 上で定義される正則関数 f(z) で z が E に含まれるときは常に

h(z) = f(z)

が成り立つならば、正則関数 f を正則関数 h の(D 上の)解析接続とよび、また h は f によって D まで解析接続可能であるという。正則関数に関する一致の定理によれば、局所的に恒等的に等しい正則関数は大域的に一致するため、解析接続の概念はもう少し一般に、二つの正則関数 h, f の定義域 E と D が共通部分 E ∩ D を持つときに

[pic]

であるならば、h および f は領域の和集合 E ∪ D まで広げた領域で定義される正則関数と見なすことであるということもできる。つまり、ある領域における(局所的な)正則関数は一つの大きな(大域的な)正則関数の局所的な姿であると考えることができ、解析接続は局所的な関数とその定義域の組を張り合わせて大域的な正則関数を表示する方法であると捕らえられる。このような立場からは、正則関数は解析接続を可能な限り施して定義域を広げたものと考えて扱うのが自然である。

ここで、ある領域を定義域としてそこで特定の表示を持つ正則関数に対して、その定義域を超えて解析接続して得られる正則関数を考えるとき、はじめの表示がもとの定義域の外でも有効であるわけではないことには注意しなければならない。たとえば、ゼータ関数の値 ζ(−1) = −1/12 に対して、Re(s) > 1 上で有効なゼータ関数の表示

[pic]

を、s = −1 に対してむりやり適用すると

[pic]

となり(→1+2+3+4+…)、この表示が s = −1 の周辺で有効でないことを見て取ることができる。一方で、明らかに無限大に発散するはずの右辺が負の値を持つ左辺と等しいという、この一見不可解な等式を物理学への応用などの観点から正当化する方法が、繰り込みなどいくつか知られていて、それ自体興味深い研究対象である。

最初に与えられた正則関数を解析接続したときに、ガウス平面内の領域でこれ以上解析接続できないような極大単連結領域が存在する場合はさほど問題は起きないのであるが、一般には特異点のまわりで「おかしな振る舞い」が現れて状況が複雑化するため、大域的な議論はそれほど単純ではない。たとえば、局所的には一価な正則関数でも、大域的には多価関数となるような場面に遭遇するのはこのような事情の現れの一つである。二つの解析接続がいつ一致するかというのはホモトピーの言葉を使って述べることができ、一価性定理(モノドロミー定理)などが知られている。一方、局所的に成立する関数等式は解析接続によって大域的な議論に移しても保たれる(関数関係不変の法則あるいは定理)ことが知られており、特徴的な関数等式が判っている Γ 関数やリーマン ζ 関数などの解析接続は、しばしば関数等式を用いて行われる。

解析接続と一致の定理により、正則関数の全体は層を成す。この立場から見れば、上記の局所的な正則関数は正則関数の芽である。関数関係不変の法則によれば、微分方程式はその正則解・解析解全体の成す層を表現していると考えることができる。つまり、適当なクラスの関数が作る関数空間があたえられるとき、その空間に作用してある種の層を生み出す関手として微分方程式が捉えられるのである。

11.ガンマ関数

[pic]  [pic]

y=Γ(x)            Γ(x+iy)の絶対値

(グラフ中「re」はxに相当、「im」はyに相当)

数学においてガンマ関数(Gamma function)とは、実部が正の複素数について次の積分で定義される関数をいう。

[pic]

この積分は第二種オイラー積分と呼ばれるものである。一般の複素数については次の無限乗積で定義される。

[pic]

ガンマ関数は、階乗の複素数への拡張としてオイラーによって考案されたものであり、自然数nについてΓ(n) = (n − 1)!が成立する。これに加えて、任意の正の実数x > 0についてΓ(x + 1) = xΓ(x)であり、対数凸な有理型関数であるという条件を与えればガンマ関数が一意に特定される。

・概要

ガンマ関数は、元は階乗の一般化としてオイラーが得たもので、Γという記号は、アドリアン=マリ・ルジャンドルが用いたものである。 以前はΠ(x)などと表記していた(ただしΠ(x) = Γ(x + 1))。 オイラー積分による定義から

[pic]

[pic]

であり、自然数nについて

Γ(n) = (n − 1)!

が成り立つ。従って、ガンマ関数は階乗の定義域を複素平面に拡張したものといえる。そのような関数は無数に存在するが、正の実軸上で対数凸である解析関数という条件を付ければ、それは一意に定まりガンマ関数に他ならない(→ボーア・モレルップの定理)。右半平面においてオイラー積分で定義されたガンマ関数は全平面に有理型に解析接続する。ガンマ関数は零点を持たず、原点と負の整数に一位の極を持つ。その留数は、

[pic]

である。また、非整数でのガンマ関数の値のうちで最も有名なのは、おそらく以下のものであろう。

[pic]

・定義の整合性

定義の積分表示と乗積表示が一致することを示す。

[pic]

とすれば[pic]であるから[pic]である。t = nuの置換により

[pic]

nzを除く部分をgn(z)として

[pic]

[pic]

これにより

[pic]

を得る。故に

[pic]

である。

・ワイエルシュトラスの乗積表示

オイラーの乗積表示からオイラーの定数[pic]を括り出すとワイエルシュトラスの形式が得られる。ワイエルシュトラスはガンマ関数が負の整数に極を持つことを嫌って逆数を用いた。ガンマ関数の逆数は複素平面全体で正則である。

[pic]

・ハンケルの積分表示

ガンマ関数は次の経路積分で表される。積分経路は正の無限大から実軸の上側に沿って原点に至り、原点を正の向きに回り、実軸の下側に沿って無限大に戻るものとする。但し、その偏角は[pic]とする。

[pic]

この積分は、積分経路を適当に変形し、数値積分でガンマ関数の値を求めるために使われることがある。

・ハンケルの積分表示の導出

極座標表示( − t) = reiθを用いると、実軸の上側に沿う部分はθ = − πで[pic]からr = δまで、原点を回る部分はr = δでθ = − πからθ = πまで、実軸の下側に沿う部分はθ = πでr = δから[pic]までとなる。

[pic]

[pic]とすると[pic]で[pic]であるから

[pic]

である。しかし、左辺の被積分関数はzが有界であるかぎり正則であるから、左辺は複素平面全体に解析接続する。従って、

[pic]

である。s = reiθとすれば、同様にして

[pic]

を得る。また、反射公式により、

[pic]

を得る。

・スターリングの公式

ガンマ関数はスターリングの公式で近似される。この漸近近似は複素平面全体(負の実数を除く)で成立するが、[pic]に近づくにつれ近似の誤差が大きくなる(極限の収束が遅くなる)ため、応用上は反射公式などを用いて[pic]程度に制限することが多い。

[pic]

[pic]

・反射公式

次の恒等式をオイラーの反射公式(reflection formula)という。

[pic]

この恒等式はオイラーの乗積表示から得られる。

[pic]

この分母は正弦関数の無限乗積展開であるから、

[pic]

である。反射公式にz = 1 / 2を代入すれば

[pic]

となり

[pic]

を得る。

・乗法公式

次の恒等式をガウスの乗法公式(multiplication formula)という。

[pic]

この証明を示す。両辺の比をf(z)とすると

[pic]

[pic]

故に、任意に大きな自然数mについてf(z + m) = f(z)が成立する。スターリングの公式により

[pic]

途中で

[pic]

を適用した。

[pic]

であり、故に

[pic]

が成立する。

・いくつかの具体的な値

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

12. リーマンゼータ函数(ゼータ関数)

[pic]

複素数平面におけるリーマンのゼータ関数。点 s における色が ζ(s) の値を表しており、濃いほど 0 に近い。色調はその値の偏角を表しており、例えば正の実数は赤である。s = 1 における白い点は極であり、実軸の負の部分および臨界線 Re(s) = 1/2 上の黒い点は零点である。

ゼータ関数(zeta function)とは、狭義にはリーマンのゼータと呼ばれる

[pic]

で表される関数のことをいう。 また、ガンマ関数を用いれば、

[pic]

とも定義できる。

すでにオイラーが考察して重要な発見をしていたが、ギリシャ文字のζで表したのはリーマンが最初であり、このことからリーマン・ゼータ関数(Riemann zeta function)と呼ぶ。上記級数は s が 1 より大きい実部をもつ複素数のときのみ収束するが、解析接続によって複素数平面の全域で定義された有理型関数となる。素数分布の研究において極めて重要な関数である。

・ゼータ関数の特殊値

いくつかの s については ζ(s) の値はよく知られている。特に、

[pic] (→バーゼル問題)

[pic]

[pic]

などである。実際、s が正の偶数、負の奇数のときのゼータの値はすでにオイラーが公式を発見した。s が負の偶数であれば ζ(s) = 0 である。これをリーマン・ゼータ関数の自明な零点とよぶ(算出はフーリエ級数参照)。

しかし未だに、たとえば s が正の奇数のときの ζ(s) の値はよくわかっていない。それでもラマヌジャンなどは次のような表示式を得ている。

[pic]

ここで、Bnはベルヌーイ数である。

ただし、s = 3 の場合に限り、次のような表示式が知られている。

[pic]

これを、アペリーの定数と呼ぶ。

・オイラー積

素数との関連はオイラーによって示された。すべての素数 p を亘る無限積として(リーマン)ゼータ関数は

[pic]

という表示を持つ。これをオイラー積あるいはオイラー表示という。このような表示が出来ることは、幾何級数(等比級数)の公式

[pic]

が絶対収束すること(特に有限和のように分配法則が成り立つこと)に注意して、十分に大きな素数 p' を固定し、それ以下の素数 p にを亘る有限積をつくり、その p' → ∞ とした極限を考えることで示すことが出来る。実際に、この有限積の展開には自然数 n の素因数分解に現れる最大の素因数が p' であれば、そこまでの有限積の中に n が含まれる。

・ゼータ関数の表示と関数等式

ゼータ関数は次のような表示ももつ:

[pic]

ここで ρ に関する積はリーマン・ゼータ関数の複素零点全体をわたるものとする。この式から、

[pic]

は整関数であることがわかる。実際

[pic]

ここで γ はオイラーの定数、γi はスティルチェスの定数と呼ばれているものである。

またゼータ関数は s と 1 - s に関する対称的な関数等式をもつ。便宜上次の ξ を導入する:

[pic]

すると、

ξ(s) = ξ(1 − s)

が成り立つ。

・ゼータ関数と数論的関数

ゼータ関数を適当に組み合わせることにより、様々な数論的関数を係数とするディリクレ級数の母関数を得ることができる。ほんの一例を紹介しよう。

たとえば、ゼータ関数の逆数はメビウス関数 μ(n) を用いて

[pic]

と表せる。この式と ζ(2) の値から、分布が一様であるという仮定のもと、任意に取り出した2つの整数が互いに素である確率は 6/π2 であることが証明できる。

自然数 n の(正の)約数の個数を d(n), すべての約数の和を σ(n) で表すとき、

[pic]

[pic]

が成り立ち、また、n と互いに素な n 以下の自然数の個数を オイラーのφ関数 φ(n)で表すとき、

[pic]

なども成り立つ。

・ゼータ関数と素数の個数関数

素数分布との関連、すなわち素数の個数関数 π(x) とゼータ関数との関係を、形式的だが簡単な変形によって導出してみよう。

まずゼータ関数のオイラー積表示の両辺において対数をとり、テイラー展開で和の中の対数を展開する:

[pic]

ここで各 n ≥ 1 について

[pic]

と変形して、先の式に代入すると

[pic]

通常

[pic]

と置いて、最終的に上式は次のように書かれる。

[pic]

この公式に、メリン変換などと呼ばれる積分の反転公式を使うと、Π(x) を陽の形(explicit)に表示する公式を求めることができる。この公式は、リーマンの素数公式、あるいは明示公式(explicit formula)などと呼ばれている。なおメビウスの反転公式によって π(x) は

[pic]

とかけることを注意しておこう。

ゼータ関数の零点の分布に関する未解決問題であるリーマン予想が、これらのことに密接に関係している。

13.オイラー数

 オイラー数は、以下のテイラー展開で定義される整数列Enのこと。

[pic]

添字が奇数のものは全て0で、偶数のものは符号が交互になっている。

なお、Enを

[pic]

または、

[pic]

で定義することもあり、この場合、添字が偶数のときの符号は常に正となる。

・例

E0 = 1

E2 = -1

E4 = 5

E6 = -61

E8 = 1,385

E10 = -50,521

E12 = 2,702,765

E14 = -199,360,981

E16 = 19,391,512,145

E18 = -2,404,879,675,441

14.双曲線関数

 数学において、双曲線関数(Hyperbolic function)とは、三角関数と類似の関数で、標準形の双曲線を媒介変数表示するときなどに現れる。

・概要

[pic]  [pic]

左図:斜線の領域の面積が θ /2 の時の単位円周上の座標が (cos θ , sin θ )

右図:斜線の領域の面積が θ /2 の時の双曲線上の座標が(cosh θ ,sinh θ )

三角関数は単位円周を用いて定義することができる。

以下、説明を簡単にするために第一象限の話に限る。

単位円周上の点 A (cos θ , sin θ ) と x 軸上の点 B (1,0)、原点 O を考える。線分 AO、BO と弧 AB によって囲まれた領域の面積は θ /2 である。

この性質を用いて逆に三角関数を定義することもできる。すなわち、単位円周上の点 A と x 軸上の点 B (1,0)、 を取り、線分 AO、BO と弧 AB によって囲まれた領域の面積が θ /2 であるとき、 A の座標を (cos θ , sin θ ) として、三角関数を定義することができる。

単位円の定義式は

x2 + y2 = 1

であり、標準形の双曲線の定義式は y2 の符号を変えただけの

x2 − y2 = 1

である。単位円の面積で三角関数を定義したのと同じように双曲線を用いて双曲線関数を定義することができる。

標準形の双曲線上の点 A と x 軸上の点 B (1,0) を取り、線分 AO、BO と双曲線の囲む領域の面積が θ /2 であるとき、 A の座標を (cosh θ , sinh θ ) として、双曲線関数 cosh, sinh が定義される。

ちなみに、三角関数の定義に現れた θ は、弧度法における角度に対応していたが、双曲線関数では角度には対応しない。

このように三角関数と双曲線関数は非常に似通った関数として定義され、いろいろな場面でその類似性が現れる。定義に双曲線を用いる関数を双曲線関数と呼ぶことにあわせて、定義に単位円を用いる三角関数の事を円関数 (circular function) と呼ぶこともある。

・定義

一般に、双曲線関数は指数関数 ex を用いて

[pic]

と定義される。sinh, cosh をそれぞれ双曲線正弦関数 (hyperbolic sine; ハイパボリックサイン)、双曲線余弦関数 (hyperbolic cosine; ハイパボリックコサイン) と呼ぶ。他にも三角関数との類似で双曲線正接・余接関数

[pic]

や、双曲線正割・余割関数

[pic]

なども定義できる。また、例えば cosh を cos hyp や [pic]などと表すこともありcosechは長いのでcschと書くこともある。

このように定義された、双曲線正弦関数、双曲線余弦関数、双曲線正接関数、双曲線余接関数、双曲線正割関数、双曲線余割関数を総称して 双曲線関数という。

指数関数 ex は x を複素変数に拡張できるので、指数関数で定義されている双曲線関数自体も x を複素変数にとってもよい。

双曲線関数はいずれも名称が長いため、読むときは省略されることも多く sinh はシャイン あるいは シンチ 、 cosh はコシャイン あるいは コッシュ などと読まれたりもする。

・双曲線関数の性質

-基本性質

[pic]  [pic]

左図:sinh, cosh と tanh のグラフ。特にcosh x のグラフは懸垂線として知られている。

右図:csch, sech と coth のグラフ

指数関数を偶関数の部分と奇関数の部分に分けた時、

ex = cosh x + sinh x

e−x = cosh x − sinh x

となり、偶関数部分が cosh x で、奇関数部分が sinh x であることが分かる。 また (cosh x, sinh x) は、双曲線 x2 − y2 = 1 上の点であり

cosh2 x − sinh2 x = 1

-加法定理

三角関数の場合と同様に次の加法定理が成立する。

sinh(α+β) = sinh α cosh β + cosh α sinh β

cosh(α+β) = cosh α cosh β + sinh α sinh β

[pic]

・微分公式

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

したがって、 sinh x と cosh x はいずれも二階の線型微分方程式

[pic]

の解であり、この微分方程式の基本解系の一つになる。

・テイラー展開

双曲線関数のテイラー展開は

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

ここで、Bn は ベルヌーイ数、En は オイラー数とする。

・無限乗積展開

双曲線関数は以下に示す無限乗積に展開される。(→証明)

[pic]

[pic]

・三角関数との関係

複素変数で定義された三角関数と双曲線関数を比べてみると

sinh x = − i sin(ix)

cosh x = cos(ix)

という関係にある。

これは、それぞれの指数関数による表現を比べても分かるし、テイラー展開を比べても分かる。

・逆双曲線関数

双曲線関数が指数関数で表せるように、その逆関数である逆双曲線関数は対数関数を用いて表示することができる。等式 x = sinh y や x = cosh y を考えれば、これらは ey に関する二次方程式であるから解くことができて、次の表示を得る。

[pic]

[pic]

逆関数 sinh−1, cosh−1 はそれぞれ area sin hyp, area cos hyp (area は「面積」の意)もしくはそれを略して ar sinh, ar cosh と書いたり、逆三角関数と同様に arcsinh, arccosh などと書いたりすることもある。

・微分公式

[pic]

[pic]

このことから、(1−x2)1/2 を含む有理関数の原始関数を求めるために x = sin t などと三角関数を用いた置換積分を考えると有用である場合が多いのと同様に、(x2+1)1/2 を含む有理関数の積分に双曲線関数を用いた置換積分を考えることは有用であることが多い。

|[pic] |[pic] |[pic] |

|arcsinhのグラフ |arccoshのグラフ |arctanhのグラフ |

15.ベルヌーイ数

 ベルヌーイ数(Bernoulli number)とは有理数で、次の関数をマクローリン展開すなわちテイラー展開したときの、各項の係数に対して定義される数 Bn をいう。

[pic]

ただし、

[pic]

である。何度微分しても f(n)(0) は不定形となってしまうから、定義から実際にベルヌーイ数を求めるのは容易ではない。そこで、しばしば次のような漸化式が用いられる。

[pic]

ここで

[pic]

この漸化式は、上記の関数f(x)の逆数関数をテイラー展開し、その2つの積が1になることから導ける。この漸化式は厳密な計算には有用であるが、nが大きくなると途中の式の値が非常に大きくなるため、浮動小数点数を使って計算する場合、精度が著しく悪くなる計算として知られている。 ベルヌーイ数を使うと規則性が簡単にわからない正接関数のマクローリン展開などが容易に書ける。

[pic]



[pic]

などがある。上の漸化式から、ベルヌーイ数(列)の第20項までを算出すれば、

|n |Bnの分子 |Bnの分母 |

|0 |1 |1 |

|1 |-1 |2 |

|2 |1 |6 |

|3 |0 |  |

|4 |-1 |30 |

|5 |0 |  |

|6 |1 |42 |

|7 |0 |  |

|8 |-1 |30 |

|9 |0 |  |

|10 |5 |66 |

|11 |0 |  |

|12 |-691 |2730 |

|13 |0 |  |

|14 |7 |6 |

|15 |0 |  |

|16 |-3617 |510 |

|17 |0 |  |

|18 |43867 |798 |

|19 |0 |  |

|20 |-174611 |330 |

となる。

奇数番目のベルヌーイ数はB1を除けば全て0であり、偶数番目はB0を除いて正の数と負の数が交互に並ぶ。このことは、正接関数のマクローリン展開における偶数乗の項の係数が0であり、奇数乗の項の係数がすべて正の数であることから証明できる。

16.自然対数

 自然対数(natural logarithm)は、ネイピア数を底とする対数 (logarithm) で、比較的数学的要素の強い分野で用いられる対数である。

歴史的には、オランダのニコラス・メルカトルによって、1668年に、1/xの積分として見出された。

[pic]

自然対数の定める関数 log x は指数関数 ex の逆関数である。

分野によっては、log x と書いたときに常用対数や底が 2 の対数と紛らわしい場合などがあるため、natural logarithm であることを強調して、特に

[pic]

と記すこともある。

・複素数の対数関数

[pic]  [pic]

左図:Log(x+iy) の実部(グラフ中「re」はxに相当、「im」はyに相当)

右図:Log(x+iy) の虚部(グラフ中「re」はxに相当、「im」はyに相当)

0 でない複素数 z を極座標表示して

[pic]

と書けたとする。対数関数は指数関数の逆関数なので

[pic]

ということになるが、この θ の選び方は一通りではなく 2π の整数倍だけ異なる値を選ぶことができる。このことにより、複素数の対数関数は多価正則関数である。

定義域を制限することによって、その定義域の上では正則な一価関数となるように θ の選び方を定めることができる。定義域は 0 を含まない単連結領域ならどれでもよいが、よく使われるのは複素平面から 0 と負の実数を除いた領域であり、変数の偏角が-π < θ < π の範囲を動き、[pic]によって正則な一価関数が得られる。この関数を対数関数の主値と呼び、

[pic]

と書くことがある(Ln z とすることはあまりない)。

・バナッハ環における対数関数

|x| < 1 を満たす x に対して、テイラー展開

[pic]

が可能である。なお、上記の級数展開も、1668年にニコラス・メルカトールにより見出されたもの。

すべての固有値の絶対値が 1 より小さい正方行列 X が与えられたとき、このテイラー展開の変数に X を代入することにより、行列 I + X の対数 ln(I + X) (I は X と同じサイズの単位行列)が定義される。より一般的に、和や積の構造と両立するノルムを持った完備な空間であるバナッハ環において、ノルムが 1 より小さい元 x に対し上の式によって 1 + x の対数が上と同じ式によって定義できる。このとき指数関数による ln(1 + x)の像は可逆元 1 + x になっている。

・自然対数の様々な表示

指数関数xt = et log xのt に関する導関数がxtlog xと書けることから、次のような自然対数の表示が得られる:

[pic].

17.常用対数

 常用対数(Common logarithm)は 10 を底とする対数である。日常的に用いられる記数法である十進法との親和性が高く、広く利用されている。日常的な、あるいはそれに近い文脈で用いられることが「常用」の名称をよく裏付けるものであると知れる。

[pic]

常用対数のグラフ

・定義と概要

任意の正の数 x に対し、その常用対数 a は 10 を底とする対数として次の関係

a = log10 x ⇔ 10a = x

によって定められる(用語などの仔細はおおもとの対数の項を参照されたい)。例えば、log10 2 ≒ 0.3010, log10 3 ≒ 0.4771, log10 100 = 2, log10 1,000 = 3 となる。

このとき任意の正の数 x を真数と呼び、10 を底という。 底である 10 はしばしば省略を受け、単に log x と書かれる。このような省略は文脈上誤解の無い場合に行われ、常用対数の場合それは、工学や天文学等の十進法に基づく科学的記数法の用いられる文脈であると考えられる(常用対数以外の特殊な底に関する略記に関しては対数の項参照)。常用対数の値は、その真数が 10 のどの程度の冪と同等の規模の数値であるのかを示す指針である。実際、実数 a (1 ≤ a < 10) と非負の整数 s に対し a × 10s と表される実数の整数部分は十進で s + 1 桁であり、逆に log x の整数部分 [log x] が s に等しい正の数は a × 10s (1 ≤ a < 10) の形に表される。さらに、実数 a (1 ≤ a < 10) と負の整数 s に対し a × 10s と表される数は、十進小数で小数首位(小数点以下に 0 でない数が現れる最初の桁)が小数第 (-s) 位となる。

底の変換公式 (loga x) (logb a) = logb x によれば、常用対数の値は同じ数を真数とする自然対数の log10 e = 約 0.43 倍の値を示す。

水素イオン指数

pH = -log10[H+]

18.テイラーの定理

 テイラーの定理(Taylor's theorem)とは、微分積分学における定理の一つで、関数をある一点における高階の微分係数を用いて近似するものである。イギリスの数学者ブルック・テイラーによって1712年に述べられたためにこの名称がある。正確に述べると、次のようになる。

関数 f が閉区間 [a, x] で n 回微分可能であるとき、

[pic]

が成り立つ。ここで、Rn は剰余項(residue)と呼ばれ、たとえば開区間 (a, x) に存在する c を用いて

[pic]

のように書ける。テイラーの定理は平均値の定理を一般化したものになっている。実際、上の式において n = 1 としたもの、つまり

f(x) = f(a) + f'(c)(x − a)

は平均値の定理に他ならない。また、テイラーの定理の証明には平均値の定理が用いられる。剰余項を積分表示したものを証明するには微積分学の基本定理を用いる。

Rn の大きさを評価することで、近似がどれだけ正確であるかが分かる。n を十分大きくしたときにRnが十分小さくなるならば、f(x) はテイラー展開が可能である。そのとき f は解析的であるといわれる。

・剰余項

剰余項 Rn はいくつかの形で表わすことができ、場合に応じて使い分けられる。

ベルヌーイの剰余

[pic]

ロッシュ-シュレミルヒの剰余

[pic]

コーシーの剰余 (p = 1)

[pic]

ラグランジュの剰余 (p = n)

[pic]

19.タンジェント数

 タンジェント数(tangent number)は、以下のテイラー展開で定義される整数列Tnのこと。

[pic]

添字が偶数のものは全て0で、奇数のものは

T1 = 1

T3 = 2

T5 = 16

T7 = 272

T9 = 7936

T11 = 353792

T13 = 22368256

T15 = 1903757312

T17 = 209865342976

T19 = 29088885112832



となる。

20.二項定理

 二項定理(binomial theorem)とは、二項式 x + y の冪乗 (x + y)n の展開(二項展開)を表す公式のことである。これは、この展開の一般項 xkyn−k の係数を n と k のみで表す定理であるということもできる。

・概要

二項展開の一般項 xkyn−k の係数を二項係数と呼び、

[pic]

とあらわす。すなわち定義から

[pic]

が成り立つ。そして定理の主張はこの二項係数は n 個から k 個選ぶ組合せの数 nCk に等しいということである。これはまた、階乗を用いて表される:

[pic]

・パスカルの三角形

2 項係数は次のようにしても求めることができる。

[pic]

この関係式はしばしば n 段目の k 番目に nCk を配置(もちろん n も k も 0 から数え始める)した三角形として表され、パスカルに因んでパスカルの三角形という。

[pic]

ある次数の 2 項係数は、左上と右上にある前の次数の 2 項係数 2 つを足したものになる。数が書いていない空白は 0 と考える。

パスカルの三角形から二項係数が求まることは、分配法則と数学的帰納法を用いれば明らかである。実際、

[pic]

と表されたならば、この両辺に x + y を掛けることにより

[pic]

が成立することが確かめられる。これを

[pic]

と比較すれば係数について所期の関係を得る。

・可換環上への拡張

二項定理を適用する多項式 x + y は実数や複素数を係数とする多項式である必要はない。任意の単位的可換環上の多項式についても上の式が成立する。

正確には、可換環 R の単位元を 1R とすると、各項の係数は

[pic]

である。これは単位元の整数倍(可換環を自然な意味で整数環 Z 上の加群とみている)という意味である。たとえば、x + y を二元体 F2 = Z/2Z 上の多項式とみなすと、 F2 の標数は 2、つまり 2 · 12 = 0 (ただし 12 は F2 の単位元)であるから、

[pic]

[pic]

などと計算することができる。

もう少し一般に、係数環の標数が p > 0(このとき p は素数である)なら、

[pic]

ただし、[pic] は [pic]を p で割った余りのこととする。またこのことと、[pic] が、k = 0, p の場合を除いて p の倍数であることから、上で挙げた例の一般化として

(x + y)p = xp + yp

となることを得る(ただし、いま p は係数環の標数であったことを忘れてはいけない)。これはさらに

[pic]

の形に一般化できる。これはとくに位数 q = pn の有限体 GF(q) において各元を q 乗する写像

[pic]

は GF(q) の(体としての)自己同型を与えることを示している。この自己同型写像はフロベニウス写像と呼ばれる。

・一般の二項定理

また、1 + x (|x| < 1) の任意の複素数 α 乗は次のように二項級数にテイラー展開される。このことを一般の二項定理などと呼ぶことがある。

[pic]

ただし、この展開の係数はポッホハマーの記号

(α)k = α(α + 1)(α + 2)…(α + k − 1), (α)0 = 1,

(α)k = α(α − 1)(α − 2)…(α − k + 1), (α)0 = 1

やガンマ関数 Γ(z)を用いて

[pic]

と表される。α が自然数なら、これは既に定義したものと一致する。

・多項定理

多項定理とは、k 項多項式の冪乗 (x1 + x2 + … + xk)n について展開の各項

[pic]

の係数を与える公式である。これを二項で行えば既に述べた二項定理となる。(なお多項式の指数ベクトルを用いた表示については多項式も参照。)

(x1 + x2 + … + xk)n の一般項 xp (p = (p1, ..., pk), |p| = n) の係数(多項係数)は

[pic]

などのように記される。すなわち、

[pic]

そして具体的に多項係数の値は

[pic]

で与えられる。これについては順列も参照すると良い。

21.近似法

 近似法とは、関数の厳密値や方程式の厳密解を求めるときに、それが不可能または困難であるか、簡便のために近似値あるいは近似解を得る方法である。

・初等関数の近似法

テイラー展開を用いる。

関数f(x)のaの近傍における近似値を考える。 f(x)をaにおいてテイラー展開すれば

[pic]

x − aの値が十分小さければ、高次の項は無視することができる。とくに2次以降を無視すれば

[pic]

また、n次の項まで考えたものをn次近似と呼ぶ。すなわち上の例は1次近似である。

具体例

主要な関数の[pic]における2次近似を挙げておく。

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

[pic]

22.円周率

 円周率とは数学定数の1つであり、π で表される。平面幾何学における円の周の長さと直径の比として特徴づけることができる。

円周率 π は超越数の1つとしても知られており、小数点以下 35 桁(35桁くらいまでが実用的で、ルドルフによる計算の結果という歴史的な意味もある)までの値は次の通りである。

π = 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 …

[pic]

・定義

円周率は、元々、平面幾何学で定義された数であるが、平面幾何学に留まらず数学のいろいろな分野でその姿をあらわす。円周率 π の導出方法は多いが、どの定義によっても同じ値が得られるので、その時に応じて使いやすい定義を用いればよい。

円周による定義

平面幾何学において円周の長さを、その直径で割って得られる値は円の大きさに関わらず一定の値を取る。この値を円周率といい π と書く。円周率の定義から、半径が 1 の円(単位円)においては、その円周の長さは 2π である。特に、単位円を表す式 x2 + y2 = 1 を考えると、π の値は

[pic]

として積分によって求められる。

面積による定義

π を用いると半径 r の円の面積は π r2 と表されることから逆に円の面積を求め、その円の半径の平方 r2 で割って得られる値を π と定義してもよい。単位円の面積は丁度 π になることから、積分を使って

[pic]

と定めても同じことである。

指数関数・三角関数による定義

複素数 z を変数に取る指数関数を

[pic]

で定義する。

exp(0) = 1 となるが、正の実数 t に対し exp(it) = 1 を満たす最小の t を 2π として π を定義できる(i は虚数単位)。この指数関数を用いて三角関数を

[pic]

[pic]

で定義すれば、正の実数 t に対して cos(t) = 0 を満たす最小の t が π/2 であり、 sin(t) = 0 を満たす最小の t が π である。すなわち、三角関数の零点によって円周率 π が定義される。

積分による定義

[pic]

によって定義されることもある。

逆正接関数 arctan(x) が

[pic]

と表されることから、この積分は三角関数による π の再定義の一種であるとも考えられるが、 この π の定義より先に三角関数が定義されている必要はなく、 arctan(x) という関数さえも上のような積分によって定義することができる。

arctan(x) のテイラー展開

[pic]

に x = 1 を代入することによって

[pic](1400年頃:マーヴァダ、1671年:グレゴリ、1674年:ライプニッツ)

という級数が得られる。この級数の収束は極めて遅いが、部分和をとれば π の近似値を計算することもできる。

arcsin(x)のテイラー展開

[pic]

に x = 1/2 を代入することで

[pic]

が得られる。この級数の収束は非常にはやいのでコンピュータで π の正確な値を求めるのに使うことができる。

歴史

(円周率の計算の歴史については 円周率の歴史も参照のこと。)

円の周と直径の比がどんな円についても同じ値になり、その数が3より少し大きい程度だと言うことは古代エジプトやバビロニア、インド、ギリシャの幾何学者たちにはすでに知られていた。また、古代インドやギリシャの数学者たちの間では半径 r の円の面積が π r2 であることも知られていた。さらに、アルキメデスは半径 r の球の体積が [pic]であることや、この球の表面積が4πr2(同じ半径の円の面積の4倍)になることを示した。

14世紀インドの数学者・天文学者であるサンガマグラマのマドハヴァは次のような π の無限級数表示を見いだしている:

[pic]

これは逆正接関数 Arctan(x) のテイラー展開の x = 1での実現になっている。マドハヴァはまた、

[pic]

を用いてπ の値を小数点以下 11 桁まで求めている。

18世紀フランスの数学者アブラハム・ド・モワブルは、2n 回コインを投げたときに x 枚が表向きになる確率は、ある定数 C(彼はnが900の場合に数値計算によってその値を近似した)について

[pic]

となっていることを見いだした。この正規分布の概念は1738年に出版されたドモワブルの『巡り合わせの理論』に現れている。ドモワブルの友人のジェイムズ・スターリングは後になってこの定数 C が [pic]であることを示している。

1751年にヨハン・ハンイリッヒ・ランベルトはxが有理数ならば正接関数の値 tan xが無理数になることを示し、その系として π が無理数であることを導いた。さらに1882年にフェルディナント・フォン・リンデマンはπ が超越数になっていることを示し、円積問題が解けない(与えられた半径の円と同じ面積を持つ正方形を定規とコンパスで作図することはできない)ことを導いた。

ギリシャ文字 π

[pic]

アルキメデスの計算

π という文字は、周辺・地域・円周などを意味するギリシャ語 περιφε´ρεια の頭文字であり、オートレッド(1647年)やバーローによって円周を表す記号として用いられ、ジョーンズ(1706年)やオイラー(1748年)などによって、円周率の記号として用いられた。

日本語においては、この数は円周率と呼ばれているが、国によっては必ずしもそのような名前があるわけではなく、単に π と呼ばれる。円周率を計算した人物の名前を取りアルキメデス数、ルドルフ数などと呼ばれることもある。

π の性質

超越性

π は無理数であり、2 つの整数の比で表すことはできない。このことは1761年にヨハン・ハインリッヒ・ランベルトが証明したが、厳密性に欠けた部分があった。その部分は1806年にルジャンドルによって補われた。

さらに有理数を係数に用いた有限次の代数方程式の根とはならない。つまり、π は超越数である。これは1882年にフェルディナント・フォン・リンデマンによって証明された。この結果から、整数から四則演算と冪根をとる操作だけを有限回組み合わせた計算によって π の正確な値を求めることはできないことが判る。

π が超越数であることは、古くから考えられてきた、定規とコンパスのみを有限回使って円と同じ面積を持つ正方形の作図を求める円積問題が、不可能であることの証明でもある。

ランダム性

π の各桁に現れる数の並び方はランダムであることが期待されてはいるが、実際は、π が正規数であるかどうかは判っていない。例えば π の10進表示において、各桁を順に取り出した

3, 1, 4, 1, 5, 9, 2, 6, 5, 3, 5,…

を数列と見たときに、この数列には 0, …, 9 が均等に現れるのかどうか、すなわち、この数列が乱数列になっているかどうかは判っていない。それどころか 0,…,9 のどれもが無限に現れるのかどうかすら判っていない。

現在 π は 1兆桁を超える桁数まで計算され 0,…,9 がランダムに現れているようには見えるが、この状態がこの先の桁でも続くかどうかは判らないのである。

ベイリーとクランドールの2000年の発表によると、ベイリー=ボールウィン=プラウフの式を用いて2進表示で様々な桁の計算をした結果では、各数値の出現率はカオス理論に基づいていると推測できるようだ。

π に関する式

π を含む数式は非常に多い。ここではその一部を紹介する。数式によってはそれ自体が π の定義になり得るし、 π の近似値の計算などにも使われてきた。

幾何

半径 r の円の円周の長さ: C = 2πr

半径 r の円の面積: A = π r2

半径 r の球の体積: V = (4/3) π r3

半径 r の球の表面積: A = 4 π r2

a と b を半軸にもつ楕円の面積: A = πab

180度の角は π ラジアンと等しい

解析学

[pic](ウォリス)(→証明)

[pic](1735年:オイラー) (→証明、オイラーによる証明)

[pic]

[pic](ガウス積分)

[pic](→ガンマ関数)

[pic](スターリングの公式)

[pic]

[pic](オイラーの等式) [pic]とも表記される。

4/πの連分数表示:

[pic]

数論

自然数から無作為に2つを取り出した時、その2つが互いに素である確率は 6/π2 となる。

力学系・エルゴード理論

ロジスティック写像xi + 1 = 4xi(1 - xi) によって帰納的に定まる数列xi を考える。0以上1以下のほとんどすべての数について、この数列の初期値 x0としてその数を選んだ場合に

[pic]

がなりたっている。

統計

[pic](正規分布の確率密度関数)

幅 1 の無限に広がる平行線の上に長さ 1/2 の針を落とすとき、その針が平行線の1つと共有点を持つ確率は 1/π となる(Buffonの針の問題)。

その他

円の内角は度数法で 360°だが、π の小数点以下 358-360 桁は「360」である。

河川の長さと水源 - 河口間の直線距離との比は、平均すると円周率の値に近い。

23.ネイピア数の無理性の証明

 ネイピア数の無理性の証明は、1744年にオイラーが初めて行った。実際、ネイピア数 e は 2 < e < 3 を満たす無理数である。証明は背理法による。すなわち、e が有理数であると仮定して矛盾を導く。e が無理数であることの証明は、円周率 π が無理数であることの証明よりずっと易しい。π の無理性が初めて示されたのは1761年のことである。

e を底とする指数関数 ex は以下のようにテイラー展開される。

[pic]

x = 1 を代入すると

[pic]

以下、これを e の定義として無理数であることを証明する。

・証明

[pic]を満たす自然数 a, b が存在すると仮定すると b!・e は以下のように展開される。

[pic]

左辺は [pic]であるから自然数である。右辺は ( ) 内の b! からb!/b!までの項は全て自然数であるが、{ } 内のb!/(b+1) !以降の全ての項の和は

[pic]

と 1 未満になる。したがって右辺は自然数でないことになり、左辺が自然数という結果と矛盾する。

ゆえに e=a/bを満たす自然数 a, b が存在するという仮定は誤りである。

・ネイピア数の冪乗の無理性

一般に、q を 0 でない有理数とすると、eq は無理数である。これは、リンデマンの定理のごく特別な場合であるが、それ自体の証明は比較的易しく、『天書の証明』で1ページ程度にまとめられている。

24. 合同ゼータ関数

 合同ゼータ関数とは、有限体上の代数多様体を用いて定義されるゼータ関数の一種である。

Fqをq個の元をもつ有限体、Vをその上の代数多様体とする。NmをVのFqm有理点の個数(定義方程式の解の個数)とするとき、Fq上のVの合同ゼータ関数は以下のようにuの形式的べき級数として定義される。

[pic]

あるいは同じことだが

[pic]

[pic]

が定義に採用されることもある。

数学者のアンドレ・ヴェイユはVが完備な非特異代数多様体のときVの合同ゼータ関数はきわめて美しい性質を持つことを予想した(ヴェイユ予想)。この予想はアレクサンドル・グロタンディークによる代数幾何学の書き直しを促し、スキーム論の誕生のきっかけとなった。ヴェイユ予想は最終的にピエール・ルネ・ドリーニュによって完全に解決され、合同ゼータ関数はリーマン予想を満たすことが証明された。

・ヴェイユ予想

ヴェイユ予想(Weil conjecture)とは、数学者のアンドレ・ヴェイユが発表した、リーマン予想の類似で非特異代数多様体上の合同ゼータ関数における予想。(下の(3)がリーマン予想の類似)アレクサンドル・グロタンディークを経てピエール・ルネ・ドリーニュにより1974年に解決された。

-ヴェイユ予想

(1) 有理数多項式:P0(t)P1(t),...,P2n(t)が存在して

[pic]

そしてPi(t)はi次元ベッチ数biに等しい。

(2)

[pic]

ここでχ = b0 − b1 + b2 − b3 + ... + b2n

(3)

[pic]

と因数分解したとき

[pic]

が成立する。

1) はドゥワークによって、(2)はグロタンディークによって、(3)はドリーニュによって証明された

・リーマン予想

図は、リーマンのゼータ関数ζ(1/2+ix)の実部(赤色)と虚部(青色)を表したものである。自明でない零点がx = ±14.135、±21.022、±25.011に現れる。

リーマン予想(Riemann Hypothesis、リーマン仮説、単にRHとも略される)とは、ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンのゼータ関数の零点の分布に関する予想である。数学上の未解決問題のひとつであり、クレイ数学研究所はミレニアム懸賞問題の1つとしてリーマン予想の解決者に対して100万ドルの懸賞金を支払うことを約束している。

・概要

リーマンは素数の分布に関する研究を行っている際に、オイラーが研究していた以下の級数をゼータ関数と名づけ、解析接続を用いて複素数全体への拡張を行った。

ゼータ関数を次のように定義する。

[pic]

1859年にリーマンは自身の論文の中で、複素数全体 (s≠1) へゼータ関数を拡張した場合、

ζ(s) の自明でない零点 s は、全て実部が 1/2 の直線上に存在する。

と予想した。ここに、自明な零点とは負の偶数 (-2, -4, -6, …) のことである。自明でない零点は 0 < Re(s) < 1の範囲にしか存在しないことが知られており(下記の歴史を参照)、この範囲をクリティカル・ストリップという。

なお素数定理は、リーマン予想と同値な近似公式からの帰結であるが、素数定理自体はリーマン予想がなくとも証明できる。この注意は歴史的には重要なことで、実際リーマンがはっきりとは素数定理を証明できなかった理由はリーマン予想の正否にこだわっていたためであると思われている(素数分布とのゼータ関数との関係は、ゼータ関数や素数定理、リーマンの素数公式の項を参照のこと)。

現在もリーマン予想は解かれていない。数学における最も重要な未解決問題の一つである。リーマンのゼータ関数を特殊な場合に含むL関数に対しても、同様の予想を考えることができ、これを一般化されたリーマン予想(Generalised Riemann Hypothesis;GRHと略される)と呼んでいる。

最近では、虚部が小さい方から約15億個までの複素零点はすべてリーマン予想を満たすことが計算されており、現在までにまだ反例は知られていない。現在では多くの数学者が(当然のことだが、はっきりした根拠を持たずに)リーマン予想は正しいと考えているようである。しかし無限にある零点からみれば、たかだか有限の数表などは零点分布の真の姿を反映するには至らないとして、この計算結果に対して慎重な数学者もいる。歴史上有名な数学者の中でもリーマン予想を疑っていた数学者はいる。

・リーマン予想の歴史

1859年にリーマンは論文「与えられた数より小さい素数の個数について」を発表し、その中でリーマン予想を提示した。リーマン自身はその証明を試みて成功しなかったことを認めているが、中間的な結果として、ゼータ関数の自明でない零点の実数部が 1/2 について対称であり、かつ 0 から 1 の間(境界を含む)にしか存在しないことを示していた。

1896年にド・ラ・ヴァレ・プーサンとアダマールが独立に素数定理を証明したが、それはゼータ関数の自明でない零点の実数部が 1 になりえないことの証明によるものだった。よって自明でない零点の実数部の範囲は、境界を含まないところまで狭められた。

1900年にパリで開かれた第2回国際数学者会議でヒルベルトは数学上の未解決の問題23題(ヒルベルトの23の問題)を提起した。リーマン予想はこの内、素数の分布に関する8番目の問題に含まれている。

1914年にハーディは Re(s) = 1/2 上に零点が無限に存在することを示した。

2000年にクレイ数学研究所 (Clay Mathematics Institute) はリーマン予想の証明を含む数学の未解決問題7問に対してそれぞれ100万ドルの賞金をかけた(ミレニアム懸賞問題)。

2004年6月に米パデュー大学の数学者ルイ・ド・ブランジュがリーマン予想を証明したと発表した。しかし彼は既に幾度も証明を主張し反証されており、今回も同様の手法をとっているため、見込みは薄いと考えられている。

・同値命題

以下の各命題は、リーマン予想と同値である。

十分大きな任意の x に対し、

[pic]

が成り立つような定数 C が存在すること。ここに li(x) は対数積分を表す。これは

[pic]

と表現しても同じことである。ただし、O はランダウの記号である。

自然数 n の正の約数の和を σ(n) (約数関数)表すとき、n > 5040 に対して

[pic]

が成り立つこと。ここに γ はオイラー定数を表す。

任意の自然数 n に対して

[pic]

が成り立つこと。ここに、Hn は n 番目の調和数、すなわち

[pic]

で定義される有理数である。

25.階乗

 自然数 n の階乗(factorial)n!とは、1 から n までの自然数の総乗

[pic]

のことを言う。 例えば、6! = 1 × 2 × 3 × 4 × 5 × 6 = 720 である。階乗数は n が大きくなるにつれて驚くほど大きな数になるので記号として「!」が使われるようになったという。

また、0! = 1 と約束する。これは、(n-1)! = n! / n であるから、0! = 1!/1 = 1 と考えられるため、あるいは、n! が異なる n 個のものを並べる順列の総数 nPn に一致し、0 個のものを並べる順列は「何も並べない」という一通りがあると考えられるため、などと解釈できる。

順列では全て互いに異なるn個のものから n 個全てもしくは n-1 個を選んで線状に並べる方法はn!通りあり、全て互いに異なるn個のものから n 個全てを選んで円環状に並べる方法は(n-1)!通りある。

・階乗数

ある非負整数の階乗である自然数を階乗数という。

0! = 1

1! = 1

2! = 2

3! = 6

4! = 24

5! = 120

6! = 720

7! = 5040

8! = 40320

9! = 362880

10! = 3628800

また階乗数の逆数の総和は

[pic]

となり自然対数の底eに等しい。

・組み合わせ

スターリングの近似公式

大きな数の階乗はスターリングの公式によって近似することができる。

[pic]

例えば、

20! = 2432902008176640000

[pic] 

である。

・拡張

Γ関数

階乗は、自然数を変数とする写像と考えることが出来るが、この定義域を実数に拡張したものにガンマ関数

[pic]

がある。定義域を正の実数に制限すれば、これは自然数 n に対し、Γ(n+1) = n! を満たす実数値連続関数である。ガンマ関数はさらに負の整数を除く複素数の範囲にまで拡張される。

これを使って、非負整数以外の階乗を定義できる。たとえば、

[pic]

なので、n! = n×(n - 1)! より、半整数に対する階乗は

[pic]

であり、よって 3.5! は、

[pic]

となる。なお、n > 1 ならば n! < (n + 1/2)! < (n+1)! である。

(n - 1)! = n! / n より、負数の階乗も考えられる。ただし負の整数の階乗は(0での除算になるため)定義できないが、形式的に

[pic]

[pic]

と表せる。

・多重階乗

二重階乗は、自然数 n に対し、n が奇数なら 1 から n までの奇数の総乗、n が偶数なら 2 から n までの偶数の総乗である。これを n!! と書く。あまり使用されないが、逆正弦関数 Arcsin x のテイラー展開などに用いられる。なお、0! = 1 と同様に、0!! = (-1)!! = 1 である。

同様に、三重階乗はn!!!またはn!3であらわし、四重階乗はn!!!!またはn!4であらわす。

一般のm重階乗はn!mであらわす。m < n のとき、n!m = 1 である。

0!! = 1

1!! = 1

2!! = 2

3!! = 3

4!! = 8

5!! = 15

6!! = 48

7!! = 105

8!! = 384

9!! = 945

10!! = 3840

(2n)!! = 2nn!

[pic]

・階乗冪

自然数xの階乗は1からxまでの数の乗積であるが、xから1に向かってx個の数の積でもある。これを一般化して、x個ではなくn個の数の積としたもの、謂わば不完全な階乗が考えられる。それを普通の階乗と区別するために階乗冪(factorial power)という。階乗冪には下降階乗(falling factorial)と上昇階乗(rising factorial)とがある。

下降階乗はxから負の向きにn個の数の乗積である。

[pic]

上昇階乗はxから正の向きにn個の数の乗積である。

[pic]

定義から階乗冪はすべての複素数に対しても定義できる。その場合、階乗による表記はガンマ関数を用いて書き直す必要がある。

具体的には次のようになる。

[pic]

[pic]

特に上記二式の右辺の式はxが負の整数の場合に特に有効[3]である。

上記の式から、下降階乗と上昇階乗の間に次の関係が成り立つことが分かる。

[pic]

[pic]

・ポッホハマー記号

ポッホハマー記号(Pochhammer symbol)は上昇階乗を表す記号である。

[pic]

26.ザイデル収差

 ザイデル収差は、幾何光学においてレンズや鏡で像をつくるときに生じるボケやゆがみを分類し説明したものである。単色収差(単一の波長の光でも生じる収差)に含まれる。19世紀の研究者ルートヴィヒ・ザイデルにちなむ。

ザイデル収差には以下の5種類がある。

球面収差 - 光軸上の1点からでた光が像面において1点に集束しない収差。入射点の光軸からの距離によって集光点の光軸方向の位置が変わるために起こる。

コマ - 光軸外の1点から出た光が像面において1点に集束しない収差。入射点の光軸からの距離によって像の倍率が変わるために起こる。

非点収差 - 光軸外の1点から出た光線による子午像点と球欠像点のずれる収差。

像面湾曲 - 平面の物体の像面が湾曲してしまう収差。

歪曲 - 方形の物体が方形の像を結ばず、樽型・糸巻型などになる収差。

通常はこれらのすべての収差が複合して発生する。これらはレンズ面に対する光線の入射角 αに関してsin α をテイラー展開した3次の項の係数としてそれぞれ表される。このため3次収差とも呼ばれる。

ザイデル収差は幾何光学的な分類方法だが、波動光学においても収差は波面収差として説明される。

                                      以上

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